YSPプロジェクトメインイメージ

ミッション推進

ファミリーフレンドリーな社会を目指して
メルクバイオファーマの不妊治療・妊活支援

女性特有の疾病や月経による仕事のパフォーマンス低下や、不妊治療と仕事の両立の難しさによる離職など、“女性の健康”と“仕事”は密接に関係している。本連載では、はたらく女性の健康をサポートしている企業の取り組みを紹介。女性がキャリアをあきらめず活躍していく世の中を目指すために、いま必要なアクションを模索していく。

メルクバイオファーマ柴垣様

柴垣利津子(しばがき・りつこ)氏

メルクバイオファーマ株式会社 コミュニケーション部ヘッド

広報・コミュニケーション領域の専門家として20年以上の経験を持つ。外資系広報代理店にてクライアント企業へのコミュニケーション・コンサルティングに従事した後、2006年に米国シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスでMBA取得。外資系製薬企業でのマーケティングコミュニケーション職等を経て、2013年現在のメルクバイオファーマ株式会社に入社。妊活サポートプログラム「Yellow Sphere Project(イエロー スフェア プロジェクト)」の立ち上げ当初から、同プログラムの社内外へのコミュニケーションを推進。

ドイツ・ダルムシュタットに本拠地を置くサイエンスとテクノロジーの世界的企業、メルクグループ。その中でヘルスケアの事業を展開するメルクバイオファーマ株式会社は「ファミリーフレンドリー」な社会構築を目指しさまざまな制度や補助を取り入れてきた。

同社は、2017年に「Yellow Sphere Project(イエロースフェアプロジェクト)」という「働きながら妊活・不妊治療をしたい」という社員のために新たな支援制度を導入した。プロジェクトを導入した理由や経緯をコミュニケーション部の柴垣利津子氏に聞いた。

Yellow Sphere Projectとは?込められた妊活支援への思い

「働きながら妊活したい」という社員の声に応えるため、メルクバイオファーマが導入したのは、「Yellow Sphere Project(以降YSP)」という社員をサポートする制度だ。

YSPプロジェクトメインイメージ

柴垣氏: この「Yellow Sphere」は、黄色い球体という意味で満月を表現しています。また、このプロジェクトのシンボルマーク(※上記イラスト)は、女性のバイオリズムと月の満ち欠けを連想させる大きな黄色い月。より親しみやすく、かつ浸透してほしいという思いを込めています。

柴垣氏によると、YSPには大きな柱が3つあるという。

柴垣氏: まず、1つ目は、Yellow Supportの名称で、全社員が参加する妊活・不妊治療についての理解を深めるセミナーです。毎年行っており、会社全体で『妊活・不妊治療とはどういうものか』を学ぶことで不妊治療や妊活を正しく知り、妊娠を望む当事者だけでなく皆でサポートできる体制づくりにつながると考えています。
2つ目は、Yellow Leave。不妊治療を受ける社員を対象にした有給休暇の付与です。女性だけでなく男性も対象です。例えばパートナーの女性が治療を受けるときは男性も休暇を取得できます。
3つ目は、Yellow Point。不妊治療に対する治療費の助成です。男女ともに対象で、不妊治療を受ける社員に年間10万円まで補助しています。治療を続けている間、毎年申請できます。

このような内容で発足したYSPプロジェクト。柴垣氏にこの制度の立ち上げのきっかけについても聞いたところ、メルクバイオファーマならではの社会的な立ち位置、企業としての責任をうかがい知ることができた。

柴垣氏: 私たちは製薬会社なので、医療関係者の方々とお話しする機会が多いです。その中で耳にした、不妊治療をしながら仕事を継続することの困難さ。もはや仕事を辞めないと授かれない、そんな話も聞き、何かできることがあるのではと考えたのです。

不妊治療がどういうものか、当事者にはどんな体調の変化が起こるのか? そういった理解はまだまだ社会全体に足りないという現実。同社のプロジェクトチームメンバーはそこに問題意識を持ったという。

柴垣氏: まず、当社に妊活・不妊治療をする社員に対してのサポートが何もないことに気がつきました。そこからさまざまな企業のサポート体制を調べたり、医療関係者や患者さんを支援するグループなどにもお話を聞いたりしました。

妊活当事者と支援者が共感を得られる制度の構築。経営層の賛同から、グループ全体の取り組みへ

製薬会社ならではの独自の調査で「働きながらの不妊治療は難しい」「高額になる治療で先行きが不安」などという意見を目の当たりにし、それを自分たちの会社ではどのように改善していけるのかを模索したという。

柴垣氏: まずは「妊活を支援する制度を導入したい」という点において、社内承認が必要だと考え、執行役員をリードとするプロジェクトチームがスタートしました。執行役員がリードすることで、すぐに部内での詳細な議論に移ることができました。制度の初期案を作成後、実際に制度を運用していく人事部門のスタッフも参加し、皆でこの制度を作り上げていきました。もちろん、助成のための予算も不可欠のため、年間の試算も行いました。

メルクバイオファーマは新卒社員の採用を行わず、主にプロフェッショナル採用をしている。そのため社員には20代後半〜40代が多いが、妊活・不妊治療を必要とする年齢層の社員も少なくないと考えたという。だからこそ社員の声や要望も聞いた上で、当事者の立場に立って計画を立てることを目指した。プロジェクトの立ち上げ時、いちばん大変だったのは何だったのか。

柴垣氏: 経営陣に提案し、承認を得るプロセスではなぜこの制度を進めるのかというロジックを考えたり、予算を明確にしたりする過程は慎重に進めました。この企画で大事にしている「ファミリーフレンドリー」を、メルクらしい形で制度として具現化することをチーム全員で考え抜きました。そして晴れて経営陣に提案した際には、非常にポジティブな反応が返ってきました。当初はメルクバイオファーマ内のみで実施する提案でしたが、経営陣から全グループ会社で実施することを薦められ、全員一致で承認されました。

メルクバイオファーマの考え方

ここからはプロジェクトチームメンバーたちが投げた小さなボールが転がって、次第にそれが大きな雪だるまになるようにプロジェクトは進行していったという。そして、この制度を実際に活用し、バックアップを受けている人たちの反応についても聞いてみた。

柴垣氏: 実は実際の利用者の声は分かりません。なぜなら、この制度を使う妊活・不妊治療の当事者からすると、個人情報の保護やプライバシーの機密性を保たれることが最大の安心感につながるからです。

ただ、当事者ではない支援する立場の社員から、良い反応がありました。会社の取り組みとして素晴らしいと褒めていただくこともあります。

国としては2022年4月から、不妊治療に対する公的な医療保険を利用することができるようになったが、それでも治療費は、利用者にとって負担であることに変わりない。

柴垣氏: 当社のYSPプログラムでは公的な医療保険を利用した上で、「Yellow Point」で助成を受けられます。ですから金銭面でも、治療のハードルを下げられたらいいなと思います。

「人生」と「キャリア」を両立させるための制度、その内容とこれからの展望

柴垣氏: 当社を含むメルクグループジャパンでは2017年からMyWork@Merckの名称でフレキシブルワーキング制度を導入しています。働く場所や時間に制限を設けず、在宅や社外での勤務も認めています。このことで、妊活中の社員や子育て中の社員、さらには介護中の社員など、さまざまな環境において働く社員をサポートしています。

このように、さまざまな角度から社員の働きやすい環境を整えているメルクグループ。今後取り組みたいこと、実現させていきたいことを聞いてみた。

柴垣氏: 人は厳しい環境下で働くよりも、自分らしい自由な働き方ができる環境のほうが能力を十分に発揮し、パフォーマンスも向上するものだと考えます。この思いを当社の中だけにとどめておくのではなく、日本の社会全体にも広めていけたらと考えています。今後はさまざまな会社との連携も意識しつつ、メディア発信、講演やセミナーを通して私たちの考えを共有していけるよう努力したいと思っています。

社員を家族のように思い、また個人の自主性やパーソナリティにあわせてキャリア継続をバックアップしていく。メルクグループのように、自分の人生を大切に生きながらはたらき続けられる、そんな土壌が日本にもっと広がることを願う。

編集:パーソルキャリア広報部 ライター:松島 由佳

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