アトラエ林様

ミッション推進

大事なのは「社員自身が考え、選ぶこと」。
自主性を重んじた“アトラエらしい”妊活支援

月経や女性特有の疾病によるパフォーマンス低下や、不妊治療と仕事の両立の難しさによる離職など、“女性の健康”と“仕事”は密接に関係している。本連載では、はたらく女性の健康をサポートしている企業の取り組みを紹介。女性がキャリアをあきらめず活躍していく世の中を目指すために、いま必要なアクションを模索していく。

求人メディア「Green(グリーン)」や組織力向上プラットフォーム「Wevox(ウィボックス)」を運営する株式会社アトラエは、社員一人ひとりが「常に当事者意識を持ち、”会社が自分に何をしてくれるのか?ではなく、自分が会社に何ができるか?という考え方“を持ち、自ら行動し、理想の組織創りに本気で挑み続けていること」を常に意識しながら行動する「Atrae is Me.」をコアバリューとして掲げる。このように、自律を大切にする同社が導入したのが、株式会社メデタが運営する妊活・不妊治療の福利厚生サービス「コウノトリBenefit」だ。

独自のカルチャーを育むアトラエは、どのようなきっかけでこの制度の導入に至ったのか。人事担当の林亜衣子氏に聞いた。

林 亜衣子 氏

株式会社アトラエ 人事担当
2003年に横浜国立大学人間科学部を卒業後、新卒でBearingPoint株式会社(現PricewaterhouseCoopers)に入社し、IT領域のコンサルティングを担当。その後、デロイトトーマツコンサルティング合同会社に移り、Human Capital領域のコンサルティングに従事。再びPwCに戻った後、人事部所属でビジネスパートナーを務めた。出産を機に一時育児に専念したが、子育てが落ち着いたタイミングで働きたい気持ちが強くなり、2016年からアトラエに参画。現在は人事全般を担当している。

「社員に後悔してほしくない」導入の背景にある思い

アトラエが導入したのは、妊活・不妊治療の福利厚生サービス「コウノトリBenefit」を活用した妊活支援制度。年齢や性別にかかわらず、希望する社員が全員利用できるものだ。導入に至った背景の一つに、林氏の個人的な経験があるという。

林氏: 私が前職にいたころ、バリバリはたらいていた同僚たちが妊活を理由に次々と休職したことがありました。当時の私は「妊娠するにも休まないといけないのか」となかば他人事に見ていましたが、いざ自分が同じ立場になったとき、子どもはすぐに授かれるとは限らないと分かり、妊活と仕事の両立の難しさを痛感したのです。

若いうちは仕事に邁進していても、いざ妊娠や出産を考えたときに思わぬ問題にぶつかったり、仕事を続けられなくなったりする可能性がある。そのことを弊社の社員に知っておいてほしい気持ちがありました。

他社で妊活支援を始める動きが増え、自社でも導入したいと漠然と考えていたという。そんな林氏の背中を押したのが、「コウノトリBenefit」を運営するメデタの代表・伊藤慎吾氏との出会いだった。メデタの提供するプログラムは、妊活だけではなく仕事との両立も考えられており、社員が安心して働けるのではないかと考えた。

林氏: 社員が将来「もっと早くから対策しておけばよかった」と後悔することなく、しかも安心して仕事を続けられる環境を作れると思い、導入に向けて動くことを決めました。

発案当初、賛同を得られず。「アトラエらしさ」を制度設計に活かす

コウノトリBenefitは、「社員の婦人科・泌尿器科定期検診」「医師・専門家のオンライン相談」「不妊治療クリニックの紹介」など、従業員向け妊活支援の包括的サービスを備えている。このサービスを自社に導入するにあたり、林氏が経営会議でボードメンバーに相談したところ、彼らは「それ本当に今必要?」と懐疑的だった。なぜなら、同社のカルチャーに合致していないのではという考えからだった。

林氏: 弊社は「自分のことは自分で考える」「必要な情報は自分で取りに行く」という自律を大切にするカルチャーがあります。ボードメンバーが制度導入に疑問を持ったのは妊活にまつわるあらゆる支援を会社側から提供することに「アトラエらしさ」がないと感じたからでした。

社内の賛同を得るには、自社に適した「自分で考えられる」制度の導入方法を考える必要がある。そこで林氏はいくつかのアプローチを行ったという。

林氏: メデタの伊藤さんや弊社の産業医にも協力してもらい、自社のカルチャーに合わせて何度も調整しました。そして、「妊活と仕事の両立に関する知識を得るためのセミナー実施」「希望する社員への妊孕性(※)検査の提供」「医師や専門家へのオンライン相談窓口」の3つをセットで制度設計し、最終的に社内の賛同を得ました。

コウノトリbenefit
▲コウノトリBenefitのサイト

数あるサービスの中から、この3つを制度に取り入れたのには理由がある。まずは、セミナーで社員に基礎知識をつけてもらった上で、自身の人生の意思決定に役立ててもらうこと。その上で、検査を受けると判断した人には、会社負担で健康診断の一部として検査を受けられること。そして、読み解きが難しい検査結果を医師や専門家から説明してもらえること。これらの材料から、おのおのが「将来的に子どもを望むのか」「希望するなら、そのために今どうすればいいのか」を判断できるようにするためだ。

林氏は「この制度設計であれば、必要な最新の知識を得た上で選択できる」と考えた。また、代表の新居佳英氏とは「社員が活き活きと働ける環境づくりにつながるアトラエらしい制度になったね」と話したという。

(※)妊孕性:にんようせい。妊娠するための力のこと。

積極的な制度利用より、「自分で考え、選ぶこと」を尊重。

社内のGOサインが出たことで、制度の導入は進められた。「自主性」を尊重するために、あえて積極的な利用は勧めていないという。

林氏: 会社に言われたからでなく、社員にはおのおのの判断で利用してほしいと考えています。制度についてアナウンスする際も、「子どもを産むことを推奨しているわけではない。一人ひとり人生における選択は異なるので、これからの人生を考えて使いたいと思う人は活用してください」と伝えています。

そして、2022年10月に同社の社員に向けた説明会を実施した。

ここで、参加した社員の声を一部紹介する。

  • 働きながら不妊治療をすることのストレスや負荷について解像度が高まりました。(30代女性)
  • 日本では、「自分がどういう人生を歩みたいか」を考える機会がそもそも少ないのではないかと感じました。私自身は子どもがいるので制度の利用は考えていませんが、不妊治療に悩むメンバーがいたときのコミュニケーションなどを学ぶことができて良かったです。(40代女性)
  • 現在妊活をしているわけではありませんが、将来子どもが欲しいと思ったときに後悔しない選択をしたい。これから妊活をするかどうかを判断するためにも、検査をして自分の状態を知っておきたいと思いました。(20代女性)

説明会を聞き「検査を受けたい」と申し出た社員は、男性・女性ともに一定数いたという。

「アトラエらしいサポートは何か」を考え続けることが課題

スタートして間もない妊活支援だが、課題や今後の展望はあるのだろうか。

林氏: ずはこの制度の行方を見守っていきたいというのが一つありますが、今の段階でできるサポートは限られているということも感じていて。制度の利用者が増え、実際に妊活を始めて困る社員が出るようであれば、別のアプローチも必要になるでしょう。
ただ、アトラエらしいサポートの方法を考えたときに、費用の補助だけでなく、カルチャー面でできることがあるかもしれません。その方法を今後考えていきたいです。

社員の自主性を尊重しながら、健康で活き活きとはたらき続けるための環境整備を行う。自社のカルチャーとフィットさせる形で妊活支援を導入したアトラエは、「はたらく」の形を多様化してくれるに違いない。

※掲載している内容・肩書・社員の所属は取材当時のものです。

 

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